三重大学医学部腫瘍病理学教授就任のあいさつ

腫瘍病理学
坂本直也

 令和8年8月1日付で三重大学大学院医学系研究科腫瘍病理学の教授を拝命しました坂本直也と申します。当分野は三重県立医学専門学校時代に昭和22年に初代 妹尾左知丸教授が病理学講座を開設され、武田進教授、矢谷隆一教授、白石泰三教授、渡邉昌俊教授が歴史と伝統を積み重ねて参りました。長い歴史と伝統を有する本講座をお預かりすることになり、その責任の重さに身が引き締まる思いです。伝統を継承しつつ、時代の潮流に合う教育・研究の場を作り上げていく所存です。
 私は広島出身で、平成17(2005)年に広島大学医学部を卒業後、初期研修を経て、広島大学分子病理学教室に入局と同時に大学院生として、病理診断、分子病理学研究を行い、学位・病理専門医資格を取得しました。研究に関しては、学位論文は食道扁平上皮癌組織を用いた網羅的遺伝子発現解析から新規診断・治療標的の同定を目指す解析を行い、学位取得後は胃癌におけるmicroRNA発現解析を行い、細胞株や組織での染色を中心に研究を展開しました。その後ミシガン大学への留学の機会を頂き、大腸鋸歯状腺癌のマウスモデルの樹立やオルガノイドを用いたstem/progenitor細胞レベルでの遺伝子発現に関しての研究を行いました。帰国後は母教室に戻って、助教としてヒト胃癌・大腸癌オルガノイドを用いた薬剤耐性獲得に関する解析を展開して参りました。国立がん研究センターでは胃癌オルガノイド研究を継続すると共に、CLDN18.2抗体薬の非腫瘍部粘膜における副作用の研究や大規模臨床研究Monstar Screen 2の運営や研究に携わる機会を頂きました。診断に関しては広島大学在籍時には臓器を問わず、generalな病理診断を担当して経験を積んだ一方で、国立がん研究センター東病院では、胃癌、大腸癌を中心に診断を担当しました。三重大学では再びgeneralな病理診断を担当することになりますが、一介の病理医として三重県の医療に貢献する傍ら、消化管病理のサブスペシャリティのスキルも高めると共に、学会活動、癌取り扱い規約の委員としての仕事でプレゼンスを高めていけるよう力を尽くしたいと思います。
 三重県下の病理医不足は深刻で、人口比に換算しての病理専門医数という指標では47都道府県のうち40位という現状です。病理診断は、がんをはじめとする多くの疾患の確定診断や治療方針の決定に不可欠であり、さらに近年では、がんゲノム医療や個別化医療の進展に伴い、その役割はますます大きくなっています。医学部学生、初期研修医に病理の魅力を積極的にアピールし、まずは病理医志望者を増やしていけるように取り組んで参ります。並行して、人体病理学をしっかりと学びながら、実験病理学や分子病理学、デジタルパソロジー、ゲノム医療など、これからの病理学につながる領域にも挑戦できる環境を整えます。そして、若い医師が三重県で研修し、三重県でキャリアを形成し、将来も三重県の医療を支える病理医として活躍できる道筋を、県下の関連病院の先生方にもお力添え頂きながら築いて参りたいと思います。
 病理学は、疾患の本質を明らかにし、その理解を診断・治療・予防へとつなげていく医学の基盤です。人体病理学では、患者さんから得られた病変を通して疾患の実像を捉え、実験病理学では、その背景にある分子・細胞・組織レベルでの病態を明らかにしていきます。そして病理学は、基礎医学と臨床医学の架け橋として、両者を双方向につなぐ重要な役割を担っています。基礎研究から得られた新しい知見を患者さんの診断や治療に還元するとともに、日々の臨床から生まれる疑問を新たな研究課題として基礎医学へと還元する。この「基礎から臨床へ、そして臨床から基礎へ」という循環こそが、病理学の大きな魅力であり、大切にすべき使命だと考えています。そのために、単に研究成果を積み重ねるだけではなく、人体病理学と実験病理学を有機的に結びつけ、一人ひとりが自由に疑問を持ち、考え、議論し、新しいことに挑戦できる研究室を築いていきたいと思います。
 微力ではございますが、学内の基礎、臨床講座の先生方との共同研究を通じて少しでも三重大学の発展に貢献できればと思います。至らぬ点もあるかと存じますが、今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。